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Paloma de papel 紙の鳩

ペルー映画 (2003)

非常に力強い映画。例えば、未紹介の『太陽の帝国』(1987)のように。紹介済みで言えば、『Ballon(バルーン/東ドイツからの脱出)』(2018)、『Drømmen(我ら打ち勝たん)』(2006)、『Povodyr(導き手)』(2014)、『The Black Stallion(ワイルド・ブラック/少年の黒い馬)』(1979)、『The War(8月のメモワール)』(1994)などが、それに該当するのかも。何が力強いのか? まず、ほとんど知らなかったフジモリ大統領登場前のペルーの陰惨なテロの実態が、極めてリアルに描かれていること。そこでは、10歳前後の少年に絵空事の教義を教え込み、テロリストに育てる “あくどさ” が、克明かつ生々しく映像化されている。そして、二番目に、主人公の生き様が、3つの異なるステージで描かれ、緊張感が最初から最後まで持続していること。そして、それに加えて、ペルーの見知らぬ大自然と、そこに住むインディオの人々の貧しい暮らしが、圧倒的なパワーとなって プラス・アルファしている。この映画は、アカデミー賞外国語映画賞のペルー代表に選ばれたが、ノミネート作には入らなかった。ニューヨーク・スペイン語映画祭では作品賞を受賞している。映画は、ペルーのアンカシュ県のカルウアス(Carhuaz)という町から1時間のAhuacという電気も下水道も電話もない村で撮影されたとペルーのシネサイトに書かれてあったが、現在、Ahuacはグーグルマップ上には存在しないし、この名前で検索してもペルーの別の地域しか表示されない。カルウアスの近くで、グーグルストリートビューで見ることのできる村Asoは、何となく映画の中の村に似ている。この映画が出来てから20年近くが経ち、電気は通ったようだが、泥から作られた日干しレンガの家は変わらない。

映画は、イントロの5分後、①フアンの貧しくも幸せな山村生活を27分描き、②フアンが ペルー史上最悪のテロ集団センデロ・ルミノソ(毛派共産党)に拉致されて、“実戦教育” を受ける残虐な数ヶ月を27分弱描き、③フアンが そこから逃げ出して村に帰り、両者から異端者扱いされて切羽詰まる悲しい数日を22分描き、エンディング(クレジットは省く)に3分弱を割いている。この三分割が、映画に大きな変化を与え、緊迫感を持続させるのに成功している。①では、フアンとその同年配の友達パチョとロジータとの交流、フアンが大好きな鍛冶屋の老人との貴重な会話、パッとしない母と、最悪の義父との関係、忍び寄るテロ組織が描かれる。すべてのエピソードが、短時間で明確、観ていて飽きさせない。②では、テロリストが、集めた子供をどのように洗脳していくか、どのように戦闘訓練をするかを、これも多くのエピソードで、明確かつ多様に描き、その恐ろしさを100%見せつける。③では、テロリストからは裏切り者として抹殺される立場にあり、“テロリストが来るぞ” と警告しに行った村人からは、拉致されて無理矢理連れて行かれたにもかかわらず、テロリストの手先として追われる運命になった少年の苦しい立場を、これもエピソードを重ねて見事に描いている。結局、フアンは、テロリストだとみなされて政府軍に捕らえられ、少年刑務所を経て、成人の刑務所に移り、二十歳を超えて恩赦され、元の村に帰って行く。そこで、十数年ぶりに会うパチョとロジータとの再会は、非常に感動的で、厳しい映画の中で、唯一、心安らぐ瞬間を与えてくれる。

主役のフアンを演じるのは、アントニオ・カリルゴス(Antonio Callirgos)。11歳。両親の都合で首都リマの孤児院Perez Aranibarにいることが多いと書いてあった。これが映画初出演。2008年にTVドラマ『El gran reto』に出演しているが、映画界で活躍しているとは思えない。

あらすじ

映画は、正面が破壊された教会の横壁に、いなくなった人々の写真が貼られ、追悼のための簡素な音楽が演奏され、僅かに残った30名ほどの村人が祈りを捧げている場面から始まる。そして、この映画のタイトルでもある紙の鳩が、画面一杯に映し出される(1枚目の写真)。それを折っているのは、大部屋の2段ベッドの下の段に座り込んだ少年(2枚目の写真)。1人の婦警が少年を呼びに来る。少年は鳩を婦警に渡し(3枚目の写真、矢印)、婦警は親しげに少年の肩に手をかける。そのことから、この場所が、少年刑務所のような場所だと分かる。
  
  
  

次の場面では、同じように紙の鳩が折られているが、材料は新聞紙に変わる。そして、複数の鳩の背後には、青年が座っている(1枚目の写真)。窓の外からは、はやし立てるような大勢の声が聞こえる。青年は、2段ベッドの上の段から降りると、同室の男と軽く挨拶を交わす。場面は、3階建ての建物の窓から大勢が顔を出し、その下の通路を、銃を持った係官もいる中を、普段着の男達が 間隔を開け 一列になって歩いて行く(2枚目の写真、矢印は青年)。そして、門の前に立つTVのレポーターが話し始める。「政府は、テロで有罪判決を受けた13名の政治犯に特赦を認めました。その多くは、「センデロ・ルミノソ(毛派共産党)」や「MRTA(左翼武装組織)」などの運動に積極的に参加した証拠もないのに、20年以上拘置されてきた人たちです」。このコメントの途中で、高い鉄の塀に設けられたドアが開き、中から釈放された元囚人達が出て来る(3枚目の写真、矢印は青年)。1人の元囚人に、別のレポーターがインタビューする。「あなたはテロで有罪になりました。ご意見は?」。これに答えたのは、元囚人に抱き着いた初老の父で、憤懣をぶつける。「息子はテロリストじゃないのに13年も刑務所にいたんだ! 不当だ! わが子の成長も見られずに老いてしまった! 誰も、私たちに何もしてくれなかった! すべてを奪われたのに!」。先のレポーターは「その多くは… 20年以上」と言っていたが、この元囚人は13年。紙の鳩を作っていた青年は、年齢不詳だが、10年かもしれない。彼には、出迎えは誰もなく、集団から離れてポツンと一人で歩いて行く。そして、タイトルが表示される。
  
  
  

青年は、長距離バスに乗っている。思い浮かべるのは、少年時代の自分。窓からは、単色に近い薄暗い川が見える。ここで、画面は急に明るく、彩度がぐんと上がる。見えるのは、アンデス山脈の泥から作られ日干しレンガで出来た家々。泥の色が黄土色なので、すべてが黄土色だ。映画の冒頭に出てきた破壊された教会は、正面が白い漆喰で塗られて、できた当時の姿を保っている。だから、これは過去、青年が少年時代だった頃の映像だ。教会の隣にある鐘楼では、3人の子供(2人は男の、1人は女の子)が無断で登って、鐘を鳴らして遊んでいる(1枚目の写真)。ここで名前を紹介しておくと、この映画の主役となるフアンは、安っぽいピンクのセーターの男の子、パチョは縞模様のセーターの男の子、そして、黄色のセーターの女の子がロジータ。フアンの母はドミティラ、飲んだくれでフアンに対して愛情のかけらもない義父はフェルミン。パチョの父は村長。ロジータには、目の見えないお祖母さんがいて、いつも泥の家の前で、mamacと呼ばれる山の葦で編んだイスに座っている。鐘を鳴らすのは交代で、フアンがたまたま鐘楼の開口部に座っていると、鍛冶屋のお爺さんが、「こら、鐘楼で何しとる? すぐ降りて来い!」と叱る。フアンは、「聞こえないよ。もっと大声で!」と叫ぶ(2枚目の写真)。「すぐ降りて来い!!」(3枚目の写真)〔全景が映るが、結構危ないところに座っている/それにしても、こんな高い塔も、泥を乾燥させただけの日干しレンガ製とは、余程雨が降らないのだろうか?〕。「聞こえないってば!!」。「すぐ降りて来い! 登ってくぞ!」。鍛冶屋が塔の入口に歩いてきたので、フアンは、2人に「逃げろ」と声をかけ、3人は筒状の瓦が 乱雑に置いてあるだけの屋根を歩いて逃げる。
  
  
  

ここで、平和だった時のフアンの短いエピソードが3つ入る。フアンがロジータがいないかと、彼女の家の中を覗くがいない。そこで、いつも通りドアの脇に座っているロジータの祖母の顔の前で、どうせ目が見えないだからと、手をかざしで動かしてみる(1枚目の写真)。しかし、祖母は「ロジータ」と呼ぶ声で誰が来たか察し、フアンが近づいた息づかいと、手を振る時のかすかな空気の動きで何をされているか感じ取る。そして、フアンが自分の顔を祖母の顔の10cm以内に近づけてじっと観察していると、いきなり大声で叫ぶ。びっくりしたフアンは、地面にひっくり返り、それを見て祖母は笑い出す。フアンは、「ばあちゃん、怖いじゃないか」と文句を言う(2枚目の写真)。
  
  

そのあと、フアンは、山羊〔羊かアルパカかも?〕がいないので、ロジータが連れて行ったと察し、いつもの放牧地に向けて走って行く。すると、遠くから、ロジータの、「助けて!」と叫ぶ声が聞こえてくる。フアンは、それまで走り続けていたが、その声を聞き、一層早く走り始める。ロジータは、崖の近くに行った仔山羊を助けようとして、崖から落ちかけ、仔山羊を抱き、崖の縁につかまって助けを求めている。フアンは、まず仔山羊を取って崖の上に放つと、次にロジータを引っ張り上げる。そして、2人で山羊の群れを追って場所を変えると、2人で枯れた草地の上に横になり、ロジータは助けてもらったお礼の軽いキスをする(2枚目の写真)。
  
  

ロジータの家まで一緒に戻ったフアンは、ロジータが、「ばあちゃん、口開けて」と言って、祖母におかゆを食べさせるのをじっと見ている(1枚目の写真)。フアンが、「ぼく、やれるぞ」と言うと、ロジータは、「じゃあ、水汲んでくる」と言って、お椀をフアンに渡す。フアンは、ロジータがやっていたように、おかゆをスプーンに入れると、口元まで持って行き(2枚目の写真)、「ばあちゃん、口開けて」と言う。祖母は、口を開けるが、飲む代わりに、また大声で叫び、フアンはお椀を持ったままひっくり返る(3枚目の写真、当然は、おかゆは飛び散る)。
  
  
  

恐らく別の日、村で新築する家の土台部分の工事の指揮を 村長であるパチョの父が取っている。四角い家の土台の中で、足で泥をこねているパチョと、もう一人には、「ちゃんと混ぜろ。ちゃんとやるんだ」と声をかける。丸い石を泥で隙間を詰めて積み、その上に、泥で作った日干しレンガの第1層を並べている男には、「そこ下がってるぞ。ちゃんと平らにせんか」と注意。因みに、このようなアンデス山地の家は地震に弱く、右の写真(https://www.researchgate.net/figure/Figura-2-35)は、その崩壊例。パチョが手伝っているので、フアンは走ってくると、すぐにズボンをまくり、サンダルを脱いで泥の中に入る。それを見たパチョの父は、「フアン、手伝うのはいいが、汚れるなよ」と言い、パチョは、「父さん心配しないで、気をつけてるから」と言う。そして、2人して仲良く泥を踏んでこね始める(1枚目の写真)。しかし、柔らかい泥でバランスを崩したフアンは、泥に上に仰向けに転倒(2枚目の写真)。それを見たパチョが大笑いしたので、怒ったフアンは、すくった泥をパチョの左頬に擦り付け(3枚目の写真、矢印)、今度はフアンが高笑い。パチョがフアンに泥をぶつけ、次にフアンが投げた泥はパチョが身をかがめて泥をすくいにいったため、パチョを通り越し、近くの道を歩いていた義父フェルミンの白いYシャツの胸に当る(4枚目の写真)。村長は、フアンを助けようと、「フェルミン、構うな。大したことじゃない」と庇い、その場は収まる。村長はパチョの兄に 「弟を家に連れてけ」と命じ、フアンには 「母さんは川にいるから、きれいにしてもらえ。心配するな。フェルミンはきっと忘れてくれる」と優しく言う。




フアンは、女性達が洗濯をしている川まで行き、バケツに洗濯物を入れて洗っている母の前の石の上に立って、「母ちゃん」と呼びかける。泥だらけの息子を見た母は、「フアン、それどうしたの?」と訊く。「村長さんを手伝ってた」。母は、「フェルミンに そんな姿 見られたくない! 早く!」と言って、大急ぎで脱がせる(1枚目の写真)。そして、泥の混じった茶褐色の川の水で、フアンを洗う(2枚目の写真)。もちろん、石鹸など使わない。そのうち、母と水のかけ合いが始まる。フアンの幸せそうな顔が印象的だ(3枚目の写真)。
  
  
  

家に帰った2人。1部屋しかない寝室には、ベッドに母とフェルミンが寝て、その横の床に上に敷いたマットレスがフアンの寝る場所。そこにフアンがいると、帰宅したフェルミンが、「こっちへ来い」と言って、フアンを乱暴に連れて行こうとする(1枚目の写真、矢印はフアン)。母は 「フェルミン、放してやって。その子のせいじゃない」と庇うが、フェルミンは容赦しない。「こいつは、今夜、動物と一緒だ」と怒鳴ると、納屋に連れて行く。そこで、怒鳴り声と叩く音が聞こえるが、カメラはドアの外から心配そうに見ている母を映すだけ。母は何度も「フェルミン」と声を掛け、許してやるよう頼むが、一向に制裁は止まない。フェルミンは、義理の息子のフアンのことが、よほど嫌いなのだろう。フェルミンが出て行き、しばらくすると、ドアの向こうから母が「フアン」と呼びかける。母は、「飲んで。温かくなるわ」と言って、納屋の大雑把なドアの下の10cmはありそうな隙間から、おかゆの入った陶器の皿を差し入れる。そして、ドアの隙間から覗いているフアンに「あんたは、鍛冶屋のおじいさんを手伝いに行きなさい。遊んでるのを見られたら、耕す手伝いをさせられるわ」と、明日のことを話す(2枚目の写真)。そして、「動物に寄り添うのよ。暖かくしてくれるわ」とも。フアンは、おかゆを食べ始める(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、フアンは、鍛冶屋の老人の手伝いをした後、暗くなってから、パチョとロジータの3人で、テロリスト(フアン)、村の警護団員(ロジータ)、政府軍の伍長(パチョ)になって遊ぶ。使うのは、枝で作った玩具の銃(1枚目の写真)。走りながら教会の前まで来た3人は急停止。パチョは、2・3歩前に進み出て、「父さん」と悲しそうに言う(2枚目の写真)。カメラが反対を映すと、そこには、教会の扉の前に、首を吊られた村長の死体がぶら下がっていた(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、墓地に向かって、神父を先頭に、村長の遺体の入った棺、そして、村人全員が その後に続く(1枚目の写真)〔棺の右前方を担いでいるのは、村長の長男、その右がパチョ〕。集落を離れて崖の横にさしかかると、上から紙吹雪が降って来る(2枚目の写真)。フアンの母が拾って読むと(3枚目の写真、の矢印はセンデロ・ルミノソ(毛派共産党)が関与した場合)、そこには、「裏切り者は こうやって死ぬ。人民戦争万歳!」と印刷してあった。
  
  
  

翌日、政府軍が来て、10名ほどの村人を、何の調査もせずに、勝手にテロリストだとして連れ去る。悲しくなったフアンは、大好きな鍛冶屋の老人に会いに行く。鍛冶屋は、寂しそうに座り込んだフアンに、「彼らは戻ってこないだろう。一旦連れて行かれると、二度と戻って来ない」と話す。「だけど、テロリストじゃないよ」。「知っとるとも」。そう言うと、紙の入った箱を取り、フアンの横に座ると、物語を話し始める(1枚目の写真)。「昔々、飛びたがってた女の子がいた。その子は、山の向こうに一人で暮らしておった。夕方には空を見上げ、鳩が巣に戻ってくるのを見ておった。ある日、病気になった。重い病気だったから、草の上に寝て、鳩も見ることができず、死んでしまった。翌朝、鳩が起きると、太陽の姿がどこにもない。辺りは真っ暗で、とても悲しかった。鳩たちは、女の子が “鳩を見られなくなると泣いていた” ことを知っていた。鳩の女王、最大の鳩はそれを悲しみ、自らの翼を女の子に与え、生き返らせたんだ。鳩になった女の子は、幸せに飛んだ」(2枚目の写真)。そう話すと、鍛冶屋は折り紙で鳩を作り、「持ってけ、お前にやる」とフアンに渡す(3枚目の写真)。それは、映画の冒頭のすぐ後で、何度も出てきた “鳩の折り紙” だった。
  
  
  

別の日、パチョが駒を手の上で回しながら渓流近くの林の中を歩いていると、駒が落ちてしまう。拾おうとして茂みの中に入って行くと、下で3人が話し合っているのが見える(1枚目の写真)。そのうちの1人は、フェルミンだ。彼は、「新しい村長が来た。俺は、待った方がいいと言った」と、右の女に向かって言う。その女は、生意気な口調で、「組織の決定は、あんたの仕事じゃない」とズバリ言う。「俺は何を?」。「チラシの準備」(2枚目の写真、矢印はフェルミン。右は、この付近の山地のセンデロ・ルミノソ小隊のNo.2の情け容赦のかけらもない悪女カルメン)。3人は、「ゴンサロ大統領万歳」と言って別れる〔“ゴンサロ大統領” ことアビマエル・グスマン(Abimael Guzmán)は極左ゲリラ組織「センデロ・ルミノソ」の最高指導者で、組織内でゴンサロ大統領と呼ばれていた。1964年から3度にわたって中国に行き、文化大革命に影響を受けて帰国後、毛沢東主義派を立ち上げ、「センデロ・ルミノソ(輝ける道)」と名付けた。1980年に武装闘争を始め、アンデス山脈の農村地帯で勢力を拡大、EFEニュース(2022.7.17)によれば、「センデロ・ルミノソがペルー国家に対して開始した戦争は、1980 年から 2000 年の間に 69,000 人以上の死者を出し、国中に恐怖の種をまき散らした」と書かれている。ペルーの歴史を見れば、最も残虐な行為(ジェノサイト)をしたのは、ペルーを植民地として支配したスペインで、1568年にペルー副王に任命されたフランシスコ・デ・トレドが始めた先住民族に対する強制的集住により、スペイン人が来る前の1520年には8,865,142人あったインディオの人口は、1570年に1,292,680人にまで激減(100%→15%)、ペルー皇帝がカハマルカの戦いでスペインに負けてからほぼ1世紀後の1630年には601,645人(7%)と、計826万人も減っている(「植民地都市リマの誕生と展開」、四天王寺大学紀要54、p432より)。ナチスによるユダヤ人虐殺のホロコーストが推定600万人なので、それを上回るジェノサイトだ〔現在、誰もジェノサイトだと考えていない〕。これに比べれば、69,000 人は、その0.8%でしかないが、「ペルー、ジェノサイド」をスペイン語で検索すると、出てくるのはセンデロ・ルミノソの話ばかり。因みに、悪の権化アビマエル・グスマンは、フジモリ大統領の最初の政権下の1992年に逮捕され、2021年に獄死した。極悪人の終身刑による86歳での死は、当然の罰であろう〕。パチョは3人で集まると、「あいつテロリストだ! フェルミンはテロリストだ。新しいペルーについても話してた。フェルミンは 僕の父さんを殺した。あいつは、きっと君の父さんも殺した」と言う(3枚目の写真)〔フェルミンは、センデロ・ルミノソの党員だが、武装闘争の戦闘員ではなく、内通や協力をする補助メンバー的な存在。だから、No.2のカルメンからは格下の同志として扱われている。フアンの父についての情報は、センデロ・ルミノソによって殺されたことしか分からない。犯人はフェルミンではないが、フェルミンは、フアンの母ドミティラを養うために結婚させられた。だから、ドミティラも戦闘員ではない党員。そのことを、フアンは一切知らされていない〕
  
  
  

その帰り、辺りがもっと暗くなってから、フアンとパチョが村役場の前まで行くと、2人のテロリスト〔さっき、フェルミンと会っていた残りの2人の戦闘員〕が、壁一面にスローガンを書いている(1枚目の写真)。一番左の柱の「P.C」は書きかけで、「P.C.P.(Partido Comunista del Perú)」(ペルー共産党)、その右で男が書いているのは、「新しいペルー万歳」。ドアと窓の上の文字は「腐敗した政府をやっつけろ」。一番右の窓の下は「ゲリラ戦を始めるぞ」。2人は石の塀に隠れてそれを見ている(2枚目の写真)。家に帰ると、母とフェルミンはもう寝ていた。フアンは、自分のマットレスに入ると、パチョに言われたこと(あいつは、きっと君の父さんも殺した」)を考える(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、フェルミンが、「起きろ、さあ、急げ、早くしろ!」と フアンを叩き起こす。フェルミンは、牛2頭と木製の鋤を背負い、その後を、フアンと母が追う。村役場の前を通ると、落書きの周りに村民が集まっていた。母は、それを見せないように、フアンを引っ張って行く。荒れた農耕地では、フェルミンが牛に牽かせた鋤で石の一杯混じった土を掘り起こしている。その横では、母とフアンが、小さなジャガイモを次々と掘り出している(1枚目の写真)。フアンは、指の先をケガしたのをきっかけに、母に、「奴ら、なぜ父ちゃんを殺したの?」と訊いてみる(2枚目の写真)。党員で、かつ、“夫が殺される” ことを事前に知っていたかもしれない母は、「ずっと前の話でしょ。何年も前のね」と、口を濁す。そこで、今度は、「愛してた?」と訊く。最初は、「なぜ訊くの?」と冷たく答えたが、フアンの真剣な顔を見て、「愛してたわ」と答える。「でも、奴らは、パチョの父さんみたいに殺した。だから、フェルミンが一緒なのは、いいことなの」。「フェルミンは悪い奴。嫌いだ」。「そんなこと言わないの。彼は食べ物と家をくれる。感謝しないと」〔同志だから、こんな言い方をする〕。そして、持って来た飲み物をコップに注いで、「これ、彼に持って行って」と渡そうとする(3枚目の写真)。しかし、フアンは、受け取りを拒否し、走って逃げて行く。
  
  
  

同じ日の午後なのか、次の日かは分からないが、フアンが村役場の前を通ると、政府軍が来て、村の男全員に銃を配布している。村役場に過激な落書きがあったので、村人に、自分達の村を自衛させるためだ(1枚目の写真、矢印はフアン、落書きの大半は塗りつぶされている)。フアンが、大好きな鍛冶屋に会いに行くと、老人は重い鐘を抱えていた。「じいちゃん、何してるの?」。「手伝ってくれ」。2人で重い鐘を天井から吊るした鉤に掛ける。鍛冶屋は 「対テロリスト用の鐘だ。村長から幾つか頼まれてな」と話す〔もちろん、新任の村長から〕。「何するの?」。鍛冶屋は、「こうするのさ」と言って、鐘の中から下に垂れ下がっているロープを振って鐘を鳴らす。大きな音なので、フアンは思わず耳を塞ぐ。それを見て、鍛冶屋は嬉しそうに笑う。そして、もう一度鳴らして、自分も耳を塞ぐ。フアン:「もう一度やってよ」。2人の嬉しそうな顔が微笑ましい(2枚目の写真)。
  
  

こうして 出来上がった鐘は、映画の中に出て来るもので4個。最初に映るのは、村役場の2階に、村長自らが吊るす。2個目は、歩道沿いの大きな岩に金属棒を打ち込み、そこに鐘が掛けられる(2枚目の写真)。3個目は、どこかの家の前に木の柱が立てられ、そこから鐘が吊り下げられる。4個目は、ロジータの家の下の歩道沿いの大きな木に打ち付けた太い枝から吊り下げられる。鐘の下の3人は フアンとパチョとロジータ(3枚目の写真)。次のシーンでは、まず村長が鐘を鳴らし、他の3つも同時に鳴らす。そうすると、狭い村中で鐘の音が鳴り響き、もしテロリストがやって来たら、素早く、確実に、全員に知らせることが可能となる。
  
  
  

そして、映画の第一の転機となる 重大な出来事の始まり。フアンは、パチョを連れて自分の家に行き、パチョに 「すぐ、教えろよ」と言うと、パチョを見張りに残し、1人で家の中に入って行く。そして、狭くて何もない家の中なので、ベッドの角の下に置いてあったフェルミンのチラシを何とか発見する(1枚目の写真、矢印)。しかし、外では、パチョが見張りを怠り、コマで遊んでいる。すると、いきなりフェルミンが帰って来て、「フアンは中にいるか?」と声を掛けられ、パチョはびっくりして振り向く〔最低〕。「ここで何してる?」。バカなパチョは、それまで普通に立っていたのに、「僕の足が!」と悲鳴を上げて痛そうなフリをする〔せめて、「お父さんが帰ったよ!」とでも言えないのか?〕。だから、フアンは、フェルミンがいないと思い込み、「パチョ、見て!」と言って、チラシを持ってドアから飛び出て来る(2枚目の写真、矢印)。そこで、初めてフェルミンを見て、2人して逃げ出す。2人は、ロジータのところまで来ると、チラシをロジータに渡す。チラシには、「ゴンサロ大統領から学ぼう/新しいペルー万歳!」と印刷してあった(3枚目の写真)。これを見たパチョは、自分の失策を謝らずに、「フェルミンは 父さんを殺した」とだけ言う。ロジータは、「あんたの母さん、知ってるの?」とフアンに訊く。フアンは、母がそんな人間ではないと思って否定する。
  
  
  

フアンは、母にチラシのことを話そうと、母を探して川の洗濯場に行くが、母はいない。そこにいた1人に、「ねえ、ぼくの母ちゃん見た?」と訊くと(1枚目の写真、矢印)、「タライを取りに行ったわ」という返事。そこで、フアンは家に向かって走る。しかし、途中には、フェルミンから連絡を受けた、カルメンと、もう1人のテロリストが待ち構えていて、暴れるフアンを拉致する(2枚目の写真)。一方、フェルミンは、パチョとロジータを前に、「フアンは消え、二度と戻らん。バラせば、お前らも消える。分かったか?」と脅す(3枚目の写真)。それでも、パチョが、「僕の父さん 殺したろ?」と糾弾すると、「違う、パチョ、俺じゃない。俺は殺すのに反対だった。覚えとけ」と言う〔最初に、茂みの中で、フェルミンは 「俺は、(殺すのを)待った方がいいと言った」と話していた〕
  
  
  

フアンは、手近な隠れ場所に連れ込まれ、両手を縛られる(1枚目の写真、矢印)。そして、そこからは、縛った両手にロープをつなぎ、男のテロリストが引っ張りながら連行する(2枚目の写真、矢印はロープ)。途中、いろいろな風景が短く映るが、びっくりしたのは、氷河の末端の氷河湖に沿って歩く部分(3枚目の写真、写真では見えないが フアンはまだロープでつながれている)。
  
  
  

ようやく夜になり、3人は目的地に辿り着く。懐中電灯を持って先導するカルメンの前に現れたのは、同じく懐中電灯を持ち、目出し帽で顔を隠した男。女は、「同志ウィルメ」と挨拶する〔相手は、No.1〕。ウィルメは、「同志カルメン、サンブラーノ、迎えにきたぞ」と返事する。サンブラーノ:「新入りを連れて来ました」。ウィルメは、懐中電灯の光をフアンの顔に向け、「ここには子供はおらん、男だけだ。我々は新しい祖国のために戦ってる」と言う(1枚目の写真)。しかし、フアンは何も言わない。「どうした? なぜ黙ってる? 名前は?」。「フアン」。「これから、君はシリロ、同志シリロだ」。そう言うと、サンブラーノに、「ほどけ」と命じる。1日中縛られていたフアンの両手が解放される。カルメン:「彼はドミティラの息子。同志フェルミンの義子」。「フェルミンの? そうか。お母さんは元気か?」。フアンは答えず、代わりに走って逃げ出すが、すぐにサンブラーノに取り押さえられる(2枚目の写真)。ウィルメは、再び懐中電灯の光をフアンの顔に向けると、「殺したって良かったんだぞ!」と脅し、サンブラーノには、「何も食べさせるな」と言い、さらに、「サンブラーノ、明日 村に行ってフェルミンを見張れ」と命じる。サンブラーノは、フアンの顔の上半分をビニールで覆って縛ると(3枚目の写真、矢印)、「はい、同志ウィルメ」と答える。
  
  
  

翌朝、若くてきれいな女の子が フアンの前に現れ、目隠しを取り去り、「君、空腹?」と訊く。「うん」。「食べ物をあげるけど、その前に歌わないと」。「歌えない」。「覚えればいい。来なさい」。2人は、湖畔に作られた広場に向かって丘を降りて行く(1枚目の写真)。下の広場まで行ったフアンは、赤いセーターの上に羽織る青くて何とも形容できない上着と、黒いポンポンニットキャップ(ペルーニット)を与えられる。そして、きちんと整列して全員で歌う。「♪共産党は我らを新しい人生に導き、恐怖から疑念を吹き飛ばす。人々は仕事場で耳を傾け、ゴンサロは松明を掲げ、武装闘争を進める」(2枚目の写真、矢印はフアン)。歌が終わると、ウィルメが音頭を取って、万歳をくり返す。「毛沢東主義万歳! ゴンサロ大統領万歳! 人民戦争万歳!」。最後は、「祖国か死か! 勝利を我等に!」で終わる。何とも恐ろしい、狂気の集団だ沢東の名前が最初に出て来る。センデロ・ルミノソが、別名、派共産党と呼ばれる所以だ。ただ、毛沢東は、センデロ・ルミノソが内戦を始めた1980 年にはもう死んでいて、その時代は、鄧小平が首席だった。アビマエル・グスマンは、鄧小平の改革開放路線を「修正主義」と断罪し、自分自身を「唯一の社会主義革命の継承者」と称し、武装闘争へとつなげていく。自己を過大評価した、自惚れと驕りの塊のような狂人だったとしか思えない〕。映画は、その後、全員に粗末な朝食が配給される様を映す(3枚目の写真、矢印は陶器のお椀、白い物がどんな食べ物かは不明)。
  
  
  

フアンが、湖畔で1人座っていると、そこにウィルメがやってきて隣に座る(1枚目の写真)。最初に行った言葉は、「なぜ逃げようとした? お母さんのところに戻りたかったのか? 君の家は村にはない。ここが君の家だ。我々が一緒にいるのは、何か良いこと〔殺戮〕をするためだ。我々は新しい人生〔国家の破壊〕を築いている。君のお母さんは家で元気、君はここで元気だ。ここに お母さんはいない。ここには、我々、君の友人、君の同志がいる」という長口上。フアンが何も言わないので、ウィルメは石を拾い、「この石を、跳ね返らせられるか?」と訊く。それでも、反応がないので、立ち上がると、岸辺まで行き、石を投げて3回以上跳ねさせる。そして、もう1つ石を拾い、「試せよ。失敗しても、何も起きん」と言って石を渡す。フアンは、2回跳ねさせる(2枚目の写真、矢印は1回目)。この映画の大自然はとても荒涼として、それでいて、美しい。この湖だけ、場所を突き止めることができた(3枚目の写真、グーグル・ストリートビューの固定地点)。アンカシュ(Ancash)県の県都ワラス(Huaraz)の南東約30キロにあるケロコチャ湖(Laguna Querococha)だ。ここからの会話が、如何にも、“子供だまし” なので面白い。「君は、何になりたい?」。「鍛冶屋」。「金を稼いだら、飢えた人々をどうする? 放っておくか?」。「ううん」。「どうする?」。「お金を少しと、パンを1個あげる」。「悪くはないが、正しい途は、タダで仕事をすることだ」。「タダで?」。「タダだ」。「誰もがタダで働けば、我々はすべてを手に入れられる」〔絶対に実現しない理想論〕。「クラッカーを買いたくても、お金がない時は?」。「問題ない。お金を払う必要がないから」。「クラッカーがタダに?」。「それが我々の目標で、そのために戦ってる。だからこそ、我々は反動的政府、中産階級、権力者、半封建制度〔1920年代の中国の停滞した経済状態を指す用語~ペルーとは無関係~現実を理解していないアビマエル・グスマンの教条主義的な言葉を意味も知らずに話しているだけ〕と戦うのだ。世の中が良くなることを望むが、そうでない輩もいる。だから、我々は そいつらと戦う」。ここで、フアンは反論する。「でも、パチョの父さんは いい人だった」(4枚目の写真)。「パチョの父親は誰かな?」。「村長」。「村長は 変化を望まん。そして、変わらん者は、人民の銃弾によって死ぬ〔何と、勝手で残虐な理屈〕。パチョの父親は クラッカーがタダになることを望まなかっただろ?」。このような愚かな理論も、子供なら信じてしまう。こうして、このテロ組織は、集めた子供を洗脳していく〔こうした状況を、映画で克明に描くのは、前例がほとんどないので、非常に迫力がある。だから、省略せずに全訳で紹介した〕
  
  
  
  

湖畔の岩場の上に集められた少年達12名(1枚目の写真)。その前でウィルメが、カタパルト手榴弾の作り方を教える。「まず、半分おかくずを入れ、次に、手榴弾が爆発した時、飛び散って刺さるようクギを入れる」(2枚目の写真)「そして、導火線を付けた爆薬を正確に缶の真ん中に置く。それから、おがくずを缶の隙間に入れる。硬くなるまで ぎっしり詰めろ。導火線を出したまま缶に蓋をする。しっかりと力まかせに縛れば、缶から中身は出てこない。完了。次は君たちだ」。フアンも、見様見真似で作ってみる(3枚目の写真)。そして、各人が作った手榴弾に点火し、最も原始的な投石器〔紐の中間点に手榴弾を置いたもの〕を 右手でぐるぐると回転させる(4枚目の写真、矢印はフアン、回転する紐の先端に付いている物が手製の手榴弾)。ウィルメが時間を測り、「用意!」「今だ!」で手榴弾を放たせると、飛んでいって爆発する〔こんなことを子供にやらせるとは何と残忍で、その方法は何と稚拙なんだろう〕
  
  
  
  

次のシーンでは、岸辺の細かい石粒〔砂ではない〕の上に、フアンが好きな人について簡単な絵を描いて説明している。「母ちゃんは、家の前でぼくを待っててくれる。ぼくが、パチョとロジータにさよならを言ってる間」(1枚目の写真)「後ろは、いつも見送ってくれるおじいさん」。「お父さん?」。「ううん、鍛冶屋だよ」。次に、フアンの世話係の先輩が話し始める。「これは僕の家。火事で燃えてる」(2枚目の写真)「1人の同志が火を放ち、ここに2人の同志がいる。1人は銃を持っていて、もう1人は石で 父さんの頭蓋骨を砕いてる」〔あくまで絵の説明〕「あっちでは、僕が泣いている間、母さんが手を握っていてくれた。泣き虫だったから」。フアンが、「父ちゃんは死んだの?」と訊くと、「そう。僕は、8歳の時ここに連れて来られた。僕の母さんは 悲しみで病み、死んだ。同志たちは、父さんは反動的な帝国主義者だったと。それって悪いことだよね。だから、僕は 祖国と同志たちのために戦ってる。悪の巣のアメリカみたいになりたくないから」〔12歳くらいに見えるので、4年間で完全に洗脳された/この映画は、恐ろしいシーンを連続させる〕
  
  

そこに、カルメンがやってきて、軍事訓練だから来なさいと呼びつける。先頭を行くテロリストの後を、銃を持った子供たちが続く(1枚目の写真)。テロリストが、「しゃがめ!」と叫び、全員が草むらに姿勢を低くしてしゃがむ。「装填!」。フアンは、入隊させられて日が浅いので、銃ではなく、木の枝を持っている(2枚目の写真、矢印)。「ジグザグに前進!」。全員が石と草の荒れ地を進んで行く。しかし、フアンは、途中で進むのをやめ、みんなが離れて行くのをじっと見ている(3枚目の写真)。
  
  
  

すると、いきなり、後ろから、「何してるの?」と声がし、フアンは驚いて振り向く。そこにいたのは、意地悪で悪辣なカルメン。「逃げたかったのね?」と決めつける(1枚目の写真)。「ううん」。「いいこと、シリロ、あんたが逃げても、あんたは殺さない。あんたのお母さんを殺す。ドミティラだったわね? 分かった?」〔何という、残虐性〕。「逃げるつもりじゃなかった。走ってたら、転んだ」〔少なくとも、後半は嘘〕。「信じないわ、シリロ、全然」。「本当だよ、お願い。逃げるつもりじゃなかった」(2枚目の写真)。「分かったシリロ。信じるわ。信じるけど、泣かないで。同志たちは、泣くのを見るのが好きじゃない。みんなは、涙は、勇気のない証拠だと言う」〔センデロ・ルミノソの思想の本質をどんどん暴いていく鋭い脚本〕
  
  

恐らく、それからかなり時間が経ってからの挿話。湖畔に集められた少年達の前で、カルメンが、「射撃準備!」「装填!」「射て!」と言いながら、発砲はせずに一連の動作をしてみせる。「分かった?」。「はい、同志カルメン!」。「声が小さい!」。「はい、同志カルメン!!」。「学んだことを見せなさい」。そう言って、指名されたのがフアン(1枚目の写真、矢印)。ぐずぐずしているので、「立って!」と叱られる。「はい、同志」。そして、銃を受け取ると、「射撃準備!」「装填!」(2枚目の写真)「射て!」を、やって見せる。「よろしい、同志シリロ。では、言いなさい。なぜ、弾丸を使わないの?」。「弾丸は武装闘争にしか使わない。弾丸は抑圧者の血を流す時にのみ有効です」。その答えに満足したカルメンは、「同志シリロに拍手!」と、少年達に拍手を強要する。フアンの顔は嬉しさに綻ぶが、洗脳が効果を上げ始めた結果であろう。
  
  
  

フアンと、世話係の先輩は、カルメンから、「2人とも イェニーと食料調達に行きなさい」と命じられる(1枚目の写真)。イェニーは、カルメンの妹で、フアンが目隠しを取って最初に出会った若くてきれいな女の子だ。3人は、送電線に沿って、道なき道を歩く(2枚目の写真)。そして、フアンの村よりは近くにある集落の食料品店まで辿り着く(3枚目の写真)。
  
  
  

イェニーは、女性店主の前に立つと、それがあたかも当然の権利であるかのように、「食料を回収に来たわ」と言う。女性店主は、党員でも何でもないので、憮然とした顔で、「少し前にあげた。いつでも、欲しい物を持ってけると思ってるの? 出てって!」と言う。そして、イェニーが動こうとしないのを見て、「出てけ!!」と怒鳴る(2枚目の写真)。フアンの世話係の少年は、すぐに拳銃を取り出して店主に向ける。そして、イェニーは 「二度とあんなことしないで!」と命令する。拳銃が向けられているので、店主は下を向くしかない。イェニーは、「シリロ、モデスト、あれを台車に入れて」と2人に命じるので、世話係の少年の名前はモデストだ。フアンは卵のパックを3つ持ち、モデストは穀物の入った大きな袋を台車に入れる(3枚目の写真)。そのあとにイェニーが寄った農家では、豚を1頭召し上げ、「わが党は あなたに感謝します」と言って、引っ張って行く(4枚目の写真、矢印はフアン)〔店も農家も困るだろうが、怖くて何もできない〕
  
  
  
  

ある日の夜。山の中腹。全員で、“日本流に言えば大文字焼” の準備をしている。すると、フアンと一緒に作業をしているモデストの前にウィルメがやって来て、「モデスト、君の番だ」と言う。モデストが嬉しそうな顔で 「本当に?」と訊くので(1枚目の写真)、よほど名誉なことなのだろう。「オスマンと一緒に行け」。モデストは、立ち上がりながら、フアンに 「どんな音だったか、あとで教えろよ」と言うので、音の出る行為なのだろうが、何をしに行ったのか、最後まで分からない〔送電鉄塔の爆破?〕。ウィルメが、「用意!」と号令をかけ、次に「点火!」と命じる。斜面に並んだ全員が、自分の前に置いた多くの缶に次々と火を点けていく(2枚目の写真、矢印はフアン)。カメラは、平原から山を見上げた撮影に切り替わる。火の帯が下から順に上がって行き、次第に模様になっていく。そして、遂に、中国共産党の党旗のシンボル模様の「鎌と槌」の形になる(3枚目の写真)。その時、大きな爆発音が聞こえ、フアンのそばにカルメンが寄って来て、「いつの日か あんたの番ね、シリロ。モデストが話してくれるわ」と言い、頭のペルーニットを撫でる(4枚目の写真)。
  
  
  

悲鳴を交えたうめき声が聞こえたので、2人は急いで他の連中のところに戻る。悲痛な声をあげ続けているモデストが、オスマンの背中に担がれてやってきて、地面に横たえられる。モデストは、「足が… 足が!」と叫ぶ(1枚目の写真、矢印は吹っ飛んだ左足の膝下部)。モデストは、オスマンに、「僕は泣かないよ、同志! 泣かない!」と、歯を食いしばる。飛んできたウィルメが、「どうした?!」と訊く。オスマンは、「塔に地雷が。誰も分からなかった。地雷が爆発し、同志モデストは吹っ飛んだ」と答える。モデストは、ウィルメにも、「僕は泣かないよ、同志! 泣かない!」と言うが、そのあとで、「僕は かたわになりたくない、同志」と言い、「僕を撃って! 革命の名のもとに 僕を撃って。撃ってよ」と頼む。ウィルメは拳銃を取り出すと(2枚目の写真、矢印)、モデストを容赦なく射殺する。あまりのことに、フアンだけなく、イェニーも顔を背ける(3枚目の写真)〔ここも、とても残酷なシーン〕。基地に戻ったフアンは、モデストが生き返って鳩にならないかと、紙の鳩を折る(4枚目の写真、矢印)。
  
  
  
  

ある日の朝早く、フアンはイェニーに起こされる。「起きて! 行かないと! あんたの村でサンブラーノが殺された」〔サンブラーノは、以前、フェルミンを見張るために村に派遣された〕「ウィルメは、あんたに来て欲しいって」。一行が村に近づくと、途中の道に政府軍の検問所ができている(1・2枚目の写真)。カルメンは、ウィルメに、「山の裏側を行きましょ」と提案するが、ウィルメは、「いや、奴らの前を歩いて行く」と、強気の姿勢を崩さない。その案の犠牲となったのは、イェニーとフアン(3枚目の写真)。
  
  
  

次のシーンでは、イェニーが薪を肩に掛け、フアンがトイモロコシの入ったカラフルな袋を肩に掛け、検問所に近づいて行く。検問所の伍長は、「書類を見せろ」とイェニーに要求し、彼女は 「まだ16歳です」と答える。「これ、何だ?」。「ただの木です」。「木か。ちょうど欲しかったとこだ。押収しろ」。イェニーの薪は、直ちに押収される。伍長は、次にフアンの袋に着目し、「お前は、何を持ってる?」と言い、返事を待たずに袋を奪い取る。そして、「良さそうだ。ラミレス、トウモロコシだ」と言い(1枚目の写真、矢印)、これも没収する。そのあと、伍長はさらに下品な行動に出る。イェニーに、「可愛い子だな」と言い、名前を訊き、「君には、ここにいて欲しい。一緒にいてくれるか?」と訊く。そして、フアンの頬を引っ叩いて、「姉さんを借りるぞ。門限までだ。いいな?」と言い、イェニーには、「寒いから、暖まりたいだけだ。いいだろ?」と、卑猥な行為を示唆する(2枚目の写真)。イェニーは、「走れシリロ、走れ!」と叫んで、逃げ出す(3枚目の写真)。その直後、検問所は、トイモロコシの袋に仕掛けられていた時限爆弾で 完全に破壊される(4枚目の写真)。
  
  
  
  

検問所の残骸に攻め入ったウィルメたちは、ケガをした伍長以外はすべて殺し、「お前たちは、昨日俺たちの血を流した。今度は、俺たちの番だ」と宣告する。そして、ウィルメは残酷なことに、「同志シリロ」と呼ぶ。フアンは、後ろに下がろうとするが、イェニーに押し出される。ウィルメは、「これで、君は、人民の真の息子になれる」と言うと、フアンが背中に掛けていた銃を外し、代わりにナイフを取り出し、伍長を「殺せ」と言う。フアンが身動き一つしないと、ウィルメは、フアンの顔の前にナイフを出し、「さあシリロ、殺せ」と、再度命令する(2枚目の写真。矢印)〔この先は 映画の中で、最も汚らわしいシーン。毛派共産党の輩は獣(けだもの)以外の何物でもない〕。フアンは、嫌々ナイフを手に取るが、泣いている伍長を、泣きそうな顔で見上げるのみ。伍長は、「お願い、殺さないで」と、かすれた声で頼む。ウィルメは、フアンに顔を近づけ、「奴らはモデスト殺した〔地雷を仕掛けたから?〕、シリロ。今度は俺たちの番だ。殺せ。殺せ」と催促する。フアンは、一応、刃先を伍長に向けるが、それ以上のことはできない。それに手を出したのが、ウィルメ以上に残虐で慈悲心のかけらもないカルメン。フアンの手をつかむと、伍長の腹にナイフを深々と突き刺し、2人の手が血まみれになる(3枚目の写真、矢印は最悪の獣(けだもの)女の腕)。
  
  
  

ここからが、映画の第二の転機。見張りが、政府軍のトラックがやって来るのに気付き、「退却だ、同志! もっとやって来たぞ!」と叫ぶ。ウィルメは、「丘に行くぞ!」と、全員を検問所の右手の丘に向かって走らせる。フアンは、死んだ伍長の前に茫然として立っている(1枚目の写真)。それに気付いたウィルメは、「シリロ! 行くぞ! 来い!」と呼びかける。しかし、テロリストのすべてが嫌になったフアンは検問所の左手の谷底に向かって逃げ出す(2枚目の写真、黄色の矢印はフアン、空色の矢印は政府軍の軍人を乗せたトラック、赤の矢印は残虐極まるテロリストたちの走って行く方向)。これで、フアンは、テロリストから見て “処刑されるべき裏切り者”、村人と政府軍から見て “テロリスト” として見られる最悪の立場となった。それでも、村に入ったフアンは、自分は “拉致されてテロリストの仲間にされただけで、依然として村人だ” と思っているので、鐘を鳴らしてテロリストの接近を村人に知らせる(3枚目の写真)。
  
  
  

フアンが最初に向かったのは、好きだったロジータの家。フアンは、いつものイスに座っている彼女の祖母に、「ばあちゃん、ロジータ どこ?」と訊くが、顔を触られて、久し振りの声に本人かどうか確認されただけ。フアンが、いつもロジータが運んで来て貯めて置く小さなドラム缶の中に手を入れて顔を洗う。しかし、手が、伍長の血にまみれていたので、顔まで赤くなり、水に映った自分の顔でそれに気付いたフアンは、もう一度顔を洗う。そして、祖母に、「ばあちゃん、ロジータに ぼくが村にいると伝えて」「テロリストが来る。ばあちゃんは隠れて」と頼みごとを2つ言う(1枚目の写真)。次いでフアンが行ったのは、自分の家。だが、母はいない。一方、祖母は、フアンの2番目の指示を守り、家の下の小道にあるテロ用の鐘を鳴らす(2枚目の写真)。それを聞いた村人が、他の2ヶ所〔村役場以外〕を鳴らす。役目を終えたと思った祖母は、フアンの最初の願いは忘れたのか、盲目で杖もないので、両手でバランスを取りながら隠れる穴まで1人で歩いて行く。一方、鳴り響く鐘の音に、村の警護団は、「テロリストがやってくる! 走れ!」と、村役場前の広場に集まる(3枚目の写真)。
  
  
  

警護団の指揮官は、パチョの兄。殺された元村長の長男。「みんなここにいる、村長。残りは キスペの上にある物見の塔にいる」と、報告する。村長:「準備完了。奴らは?」。他の警護団の男が、「いいえ、まだテロリスと見てません」と答える。村長:「誰が警報を出した?」。村長の補助役:「誰も知らない、村長」。村長は、「とにかく 助けを求めて陸軍を呼んでこい。急いで」と、1人に命令するが、その男が走って行った後で、「テロリストは 来ない」と言い出す。その時、背後から、「来るよ」と言う声がする。全員が振り向くと、そこにはフアンがいて、「ぼく、見たんだ」と言う(1枚目の写真)。パチョの兄は、行方不明になっていた “弟の友達” らしいので、「フアンか?」と言ってそばまで行くと、見たことのない上着に触ってみて、「お前一人か?」と訊く。「うん」。「奴らが、お前を送り込んだ?」。「ううん、奴らが来るって 言いに来たんだ」(2枚目の写真)。村長:「家の壁にプロパガンダを書くためか?」。「ううん、サンブラーノが殺されたから。母ちゃんと、ぼくと、フェルミンもいるし」。村長:「俺たちを 怖がらせるためじゃないのか?」。せっかく警告に来たのに、テロリストにさせられたから もう信じてもらえないと絶望したフアンは、それ以上詳しく説明するのを放棄し、決定的な過ちを犯す。すなわち、逃げ出したのだ。これで、フアンは完全にテロリストの一味になり、村長は、「追え! あのガキを捕まえろ!」と命じる。パチョの兄を先頭に、大勢がフアン追う。フアンにとっては慣れた村なので、斜面を滑り降りる。パチョの兄は、「ガキを捕まえろ! テロリストだ!」と叫ぶ。フアンは、次の石垣横の斜面を滑り降りると、途中で方向を変え、石垣に沿って逃げる。しかし、後続の6人は、真っ直ぐ滑り降り、そのまま直進して走って行く(3枚目の写真、2重の矢印はフアンが逃げた方向)。これで、追跡隊は、フアンの姿を見失う。
  
  
  

かなりの騒動を見て、ロジータと一緒にいたパチョは、近くにいた子に、「テロリストが いるの?」と訊く。その子は、直前に、パチョの兄が、この子の近くの住民に、「ドミティラのガキを追ってる。ガキを見つけたら、俺たちに知らせてくれ!」と叫んだのを聞いていたので、「ううん、ドミティラの子を追っている」と教える。それを聞いたロジータは、ある意味嬉しい知らせに、「フアンを探しに行こう」とパチョと一緒に走り出す。行き場所がなくなったフアンは、大好きな鍛冶屋の家に入って行く。そして、「奴らは ぼくを殺す気だ。母ちゃんも殺すつもりだ」と、窮状を訴える(1枚目の写真)。優しい鍛冶屋は、「こっちにおいで」と、そばに来させると、「お前は殺されん」と慰める。「母ちゃんは?」。「彼らは母さんも殺さん」(2枚目の写真)。フアンは、鍛冶屋の頬を両手で触り、「母ちゃんと一緒に逃げないと。一緒に来てよ」と頼むが、「わしはここがいい。旅をするには年を取り過ぎとる」と断られる。「奴ら、来るよ」(3枚目の写真)。鍛冶屋は、フアンの頬を両手で包み、「分かっとる。だが、誰もわしを傷つけん。自分で対抗できるしな。鐘で殴り倒してやる」と安心させる。その時、家の外から、「ドアを開けてくれ」と、パチョの兄が強制する。
  
  
  

入って来たパチョの兄は、鍛冶屋に 「ドミティラの息子のテロリストを捜してる。村にいるんだ」と告げる(1枚目の写真)。「何ヶ月も会っとらん」。「ガキは奴らが来ると言うが、誰も見てない。俺たちを怖がらせるために送り込んだに違いない。あんた、どう思う?」。常にフアンの味方の老人は、「来るかもしれん。注意するよう伝えてくれ」と、フアンを援護する。「みんなに、家に留まるように言ってる。ガキが来たら どうすべきか? 危害を加えるため、隠れているのかも」。「どこにおるか、誰に分かる?」。パチョの兄は、脈はないと思い、家を出て行く。フアンは、隠れていたベッドの隅から顔を出すと、「嘘だよ」と言う。そして、鍛冶屋の前に立つと、「警告するために来たのに、誰もぼくを信じてくれない」と、絶望する(2枚目の写真)。老人は、「気をつけろよ、フアン。お母さんのところに行くんだ」と忠告する。フアンが家を飛び出ると、ちょうとやってきたパチョとロジータに出会う。3人は、どんな場合も友達同士だ。ロジータは、フアンに抱き着く(3枚目の写真)。そして、「母さん、家に帰ったわ。急いで」と、彼女も早く家に帰れと勧める。
  
  
  

その直後の一緒の映像で、テロリストの1人が物見の塔の村人を襲う。これで、警報が出せなくなった。一方、パチョは、兄に会うと、フアンを助けようと、「僕、フアンを見た。丘へ行ったよ」と嘘を付く。「偉いぞ。いつだ?」。「ほんの少し前」。「みんな来い。丘に行くぞ! 急げ!」。これで、村から警護団がいなくなる。フアンは、家に向かい、フェルミンが、酔っ払ってよろよろと家を出て行ったのを見届けると、ドアを開け、「母ちゃん」と声を掛ける。その声で、母はフアンに駆け寄り、固く抱きしめる。「フアン あんなことになって… 私には どうすることもできなかったの」と謝る(1枚目の写真)〔この言葉は、母が “フアンは、フェルミンの告げ口で センデロ・ルミノソに拉致された” ことを知っていたことを間接的に示しており、母がテロ組織の補助員だと最初に示す証拠でもある〕。フアンは、「母ちゃん、彼らが来るよ。奴らに、母ちゃんは殺させない。逃げないと」と必死に言う〔かつて、人非人のカルメンが、「シリロ、あんたが逃げても、あんたは殺さない。あんたのお母さんを殺す」と言ったから〕。しかし、愚かな母は、「フェルミンを待たないと。一緒に行くのよ」と言う〔2人とも、組織の補助員なので〕。「あいつらには慈悲がない」。「もうやめて、フアン」〔自分の組織のメンバーなので、こう遮る〕。「ぼくも殺したんだ」〔伍長を刺したのはフアンでなくカルメンだが、検問所に爆薬を持って行ったのはフアン〕。「お聞き。あなたは まだ幼い。誰も殺してないわ」。「ぼく、やりたくなかった」。「フアン、やってないわ」(2枚目の写真)〔フアンを擁護しているのではなく、テロに加担した自分の行動を擁護していると思えなくもない〕。一方、酔っ払って村の方に歩いていったフェルミンは、ウィルメらの中核部隊と出会う。フェルミンは、「ゴンサロ大統領万歳。抑圧者に死を」と言うが、ウィルメの側近に、「飲んでるな!」と、帽子を跳ね飛ばされる。フェルミン:「あなたが来られると、祝ってました」。ウィルメは銃を突き付け、「お前はサンブラーノを殺した」と糾弾する(3枚目の写真、矢印)。フェルミン:「殺したのは陸軍です。奴らは 道路で彼を捕まえました」。フェルミンが、同志殺しの犯人ではないと分かったものの、党員が酔っ払っていることを問題視したウィルメは、フェルミンを無里矢理同行させる。
  
  
  

フアンの家では、フェルミンが戻り次第 逃げ出そうと、母が衣類を集め、フアンもそれを手伝っている。すると、ドアを気短に叩く音がする。母は、フアンに、「納屋にお行き」と言うが、フアンは、「ううん、母ちゃんから離れない」と反対する(1枚目の写真)。「彼らは私ではなく、あんたを探してるの。早く!」。フアンは納屋に走って行く。母がドアを開けると、そこにいたのは、人非人のカルメン。「今日は、ドミティラ」。「カルメン。入って」〔母は、テロリストのカルメンの名前を迷うことなく言ったので、これで、母が組織の補助員だと確定する〕。カルメンに続いて入ってきたのは、妹のイェニー。カルメンは、「何してたの?」と母に訊く。母は 「服の整理を」と嘘を付く。「同志シリロの具合は?」。「誰?」。「あんたの息子」。「フェルミンが連れてってから、何も聞いてないわ」。そんな嘘など信じないイェニーは、すぐに家の中を調べ、部屋は2つしかないので、すぐに納屋に向かう。
  
  

納屋に入ったイェニーは、「シリロ、私よ、イェニー」と呼びかける。「あんたには何も起きない。友だちだから。友だちは助け合わないと」と、如何にも親切そうに言う。次の言葉は、よりテロリストらしくなる。「伍長をどうやって刺したか、覚えてる? ウィルメは、あんな風に あんたの母さんを刺し、喉を掻っ切るわよ」。そう脅すと、近くにいた鶏を捕まえ、喉を切ると、鶏は納屋の床の上を苦しんでバタバタと跳ね回る。「こんな具合にね。あんたの母さんは、こんな目に遭わなくて済む、シリロ。私たちは、誰も傷付けたくない。全部あんた次第。信じて。あんたが出てきても、母さんには何もしない」〔フアンに何もしない、とは一言も言っていない〕。すると、この話に騙されたフアンが、藁の山の中から、「母ちゃんに何もしないって約束する?」と訊く。イェニーは、笑顔で、「約束するわ、同志。出て来て」と言う。それを信じて、フアンが出て来て、イェニーの前に立つ。すると、彼女の笑顔は一変し、フアンを殴り倒す。そして、仰向けに床に倒れたフアンの喉を締め付け、「なぜ逃げたの? わが党は、裏切り者を許さない! 裏切り者には、母親を持つ資格などない!」と、フアンと母の2人の処刑を示唆する(2枚目の写真)。
  
  

村の広場まで行ったウィルメは、村役場いた村長らを捕まえ、広場に跪(ひざまず)かせる。そして、「これは、人民裁判だ! 搾取者や 反動的な裏切り者への! 我々人民は、正義を望んでいる!」と、腕を振り上げて叫ぶ(1枚目の写真)。「お前たちは、わが党の規則を知っている! 我々と共に進むか、消されるかだ!」。村長の顔が一瞬映る。ウィルメは、フェルミンをつかむと、「我々に 酔っ払いは不要だ! 我が党のために働ける人間が必要だ!」と叫び、捕えた他の村人に、「酔っぱらいが好きか?! 村に 酔っ払いが必要か?!」と問いかけるが、テロリストの下らない質問には誰も答えない。そこで、ウィルメは、「では、我々は、こいつの舌と喉を切除する!」と宣言する(2枚目の写真)。その時、フアンと母が、カルメンらによって連行されて来て(3枚目の写真)、フェルミンの前に放り出される。
  
  
  

ウィルメは、フアンに、「寂しかったぞ、同志!」と声をかける。フアンの母は、「ウィルメ、フアンは小さい。責めないで、助けてやって。この子に罪はないわ」と懇願するが、ウィルメに、「黙れ!」と頭を押し倒され、怒ったフアンが飛びかかるが、すぐに地面に叩きつけられる。それを、隠れて見ていたパチョは、「ベニーノ〔兄〕はどこかな? なぜロンデロスはここにいない?」と言い出す〔パチョは、よほどバカなのか? フアンを救おうと、兄に 「僕、フアンを見た。丘へ行ったよ」と、村から出て行かせたのは、パチョ本人なのに〕。パチョは、ロジータに、「隠れてて、僕は戻ってくる」と言い、一番近くにある鐘まで行き、鳴らしてテロの襲来を知らせる(1枚目の写真)。それを聞いたウィルメは、すぐ部下に止めさせるよう合図する。人非人のカルメンは、「素敵な鐘ね 村長。あんたの葬式ために鳴らしてる」と言い、拳銃を村長に向ける。村長は、拳銃に向かって唾を吐きかける。カルメンは銃を村長の額に向けたところで銃声がするが、それは、鐘を鳴らしているパチョに向けてテロリストが撃ったもので、村長が死んだかどうかは分からない〔最後まで不明だが、恐らくこの時殺された〕。パチョは、逃げるが、脚を撃たれて倒れる。しかし、鐘や銃声で、丘の上にいたベニーノは、ようやく村が襲撃されていることに気付き、「奴ら広場にいるぞ!」と叫んで助けに向かう。2枚目の写真は、その時にベニーノが見た村の全景、人々が集められた広場の右にある2階建ての淡い空色の建物が村役場、左側の白い建物が教会、そのすぐ左が、映画の最初の頃、フアン達3人が遊んでいた鐘楼。ごくごく小さな山の集落だ。
  
  

自分が殺されると確信したフアンは、「母ちゃん」と抱き着く。母は、自分がテロ組織に参加したのがこんな結果を招いたので、「許してね、フアン」と謝る。フアンは、「うまくいくよ。そしたら離れない」と、母に抱き着く(1枚目の写真)〔紙の鳩が頭にある?〕。一番の悪者ウィルメは、そこからフアンを引き離し、高く掲げ、「こいつは 裏切り者だ!」と宣告する(2枚目の写真)。そして、フアンを下に降ろすと、「奴は人民を裏切った! 家族全員が裏切り者だ! だから罰せねばならん!」と言い、ナイフを取り出す。ナイフを胸に突き付けられたフアンは、泣き叫ぶ(3枚目の写真、矢印は伍長を殺した時のナイフ)。
  
  
  

そこに、間に合って、村の警護団が駆け付ける。ウィルメは処刑どころではなくなり、銃を構えて応戦する。広場に集められていた村人(多くは女性)は一斉に散らばって逃げ出す(1枚目の写真)。銃撃戦で最初に射殺されたのが、ウィルメ(2枚目の写真)。左肩、右腿、胸、右脇腹に命中。2番目は、役立たずのフェルミンで、処刑の意味で、胸や肩に4発を浴びる(3枚目の写真)。
  
  
  

それを見たフアンの母は、「フェルミン!」と叫び、立ち上がって駆け寄ろうとして、カルメンに背中を撃たれる(1枚目の写真)〔なぜ、かつては常にフアンを虐め、最後には拉致までさせてテロリストにしてしまったフェルミンを、ここまで愛するのか?〕。フアンは、「母ちゃん!」と叫び母のところまで行くと、抱きしめる(2枚目の写真)。即死ではないので、自分の行ってきた愚行を反省しながらの、ゆっくりとした死が待ち受けている。最後に射殺されたのはイェニー。フアンの母を始め、他人は平気で殺すくせに、自分の妹が死ぬと、「いとしい妹」と言って嘆き悲しむ(3枚目の写真)。こんな人非人には そんな権利はない。ただ単に、自分の無慈悲さが、こうして跳ね返ってきただけだ。それに、イェニーも、第二のカルメンならんとしていたので、当然の天罰であろう〔もし、天罰というものがあるのなら〕。これを境に、2人だけになったテロリストは、こそこそと逃げて行く。
  
  
  

一夜明け、フアンの母は息を引き取る。そこにやってきた政府軍は、生き残った唯一のテロリストとして、フアンを母の死体から引き離し(1枚目の写真)、他の死体と一緒にトラックに乗せると(2枚目の写真)、村から出て行く。それを、パチョとロジータが見送る(3枚目の写真、パチョの右脚には、撃たれた傷の包帯)。
  
  
  

画面は、映画の初めの青年に戻り、彼は、バスを降りる。降りた場所には、幅50cmくらいの土道があり、そこが村へ降りていく道。彼が最初に訪れたのは、大好きだった鍛冶屋の家。しかし、そこは荒れ果てていて、屋根すらなくなっていた(1枚目の写真、矢印は炉)。その後、彼は、奏でられている侘しい音楽に導かれ、教会の前に出る。そこは、映画の初め、死者への祈りが捧げられていた場所だ。ただ、その時には、映らなかった2人の顔がある。大人になったパチョとロジータだ。突然現れたフアン(青年)に、最初に気付いたのはロジータで、笑顔が浮かぶ。それを見たパチョも、それがフアンだと気付く(2枚目の写真)。フアンの方も、2人に気付く(3枚目の写真)。3人はお互いに近づいて行き、まず、フアンとパチョが抱き合う。そして、その背後からロジータが抱く(4枚目の写真、矢印)〔その順序から、恐らく、パチョとロジータは結婚していたのであろう〕。この、一種の悲しいハッピーエンドで、映画は終わる。画面が暗転すると、ドイツの社会心理学者エーリヒ・フロムの有名な言葉が表示される。「批判的思考は、人間の最も貴重な資質である “大切な人への愛” と結びついた時、初めて実を結ぶ」。
  
  
  
  

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